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脊椎・脊髄の病気(脊椎と脊髄の解剖学)

2006/07/14

1.背骨の病気は難しい!

さっそく『ちょっとためになる脊椎と脊髄のお話し』を始めます。第1話のタイトルは『脊椎と脊髄の解剖学』です。「解剖学」と聞いただけで、何やら難しそうな気がしますね。本当は『背骨(せぼね)の仕組み』というようなタイトルでもよかったのですが、「まじめなお話しをしているんですよ。」という意味も込めて、あえて堅苦しいタイトルにしました。もちろんできるだけ分かりやすく、簡単にお話したいと思います。ではなぜ、はじめから病気の説明をしないで、解剖の話から始めるのでしょうか?その質問にお答えする前に、背骨の病気にはどんなものがあるかあげてみましょう。

例えば、「頚椎症性脊髄症 (けいついしょうせいせきずいしょう)」「後縦靱帯骨化症 (こうじゅうじんたいこつかしょう)」「腰部脊柱管狭窄症 (ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」・・・、まだまだ沢山あります。何でしょう、この怪しげな、そして小難しい単語は?これらはみな背骨に由来する病気の名前です。しかも私たちが毎日のように診断し、手術をさせていただいている、ごくありふれた病気の名前です。
それにしても難しいですね。「こんな難しい病名をつけなくてもいいじゃないか。」と抗議したくなるくらいです。読み仮名をふってもらっても、どんな病気かすぐにわかる人は少ないのではないでしょうか?最初の「頚椎症性脊髄症」の病名を分解してみますと、「くびの骨(頚椎)の具合が悪くなった(症)ために(性)、脊髄の具合が悪くなる病気(脊髄症)」ということになります。こんな風に説明されても、まだ皆さんの頭の中は「?」がいっぱい飛び回っているのではないでしょうか?

「首の骨って何?」「どんなふうにできているの?」「どうして具合が悪くなるの?」「脊髄って何?」「脊椎と脊髄って違うの?」「脊髄の具合が悪くなるとどうなっちゃうの?」「どうして首の骨が具合が悪くなると、脊髄の具合も悪くなるの?」・・・などなど。結局、脊椎や脊髄がどんなふうにできていて、どんな働きをしているかがわからないと、易しい言葉に直しただけでは病気を理解することはできません。

そんなわけで最初に『脊椎と脊髄の解剖学』のお話しをします。背骨と神経の仕組みがわかれば、具合が悪くなったときどんな症状が出て、どんなふうに治療すればよいか理解しやすくなると思います。「脊椎と脊髄の解剖」はなかなか難しいテーマですが、できるだけ分かりやすくお話しすることにします。プロのメディカル・イラストレーターの石井久允さんにイラストをお願いいたしました。医学書にそのまま載せてもよいくらい、丁寧に正確に書いていただきました。皆さんが病気を理解する上で役に立つと思います。

2.脊柱・椎骨そして脊椎

さっそくイラストを見てみましょう(図1)。私たちの体を支えている「背骨(せぼね)」は、正確には脊柱(せきちゅう)と呼ばれています。脊柱は1本の柱のように見えますが、実は一つ一つの椎骨(ついこつ)が積み重なって構成されています。イラストで積み木のように見える一つ一つのブロックを「椎骨」、そして椎骨が積み重なってできている背骨全体を「脊柱」と呼んでいるわけです。

この他に脊椎(せきつい)という言葉があります。この「脊椎」と言う単語は便利な言葉で、先に述べた「脊柱-背骨そのもの」の意味でも「椎骨-背骨を構成している骨」の意味でも用いられます。一般に使われているのは、むしろこの「脊椎」という単語です。私たちの診療科の名前も「脊柱外科」や「椎骨外科」ではなく「脊椎脊髄外科」となっています。脊髄という単語については後から説明するとして、「背骨」か「それを構成するブロック」か厳密に区別する必要がないときには、「脊椎」という方が便利ですね。

先ほど「脊柱は1本の柱のように見えますが、実は椎骨が積み重なって構成されているものです。」と説明をしました。ではいくつの骨がどんなふうに積み重なっているのでしょうか?脊柱は頭の方からお尻の方へ順番に、「頚椎(けいつい)」「胸椎(きょうつい)」「腰椎(ようつい)」「仙骨(せんこつ)」「尾骨(びこつ)」と名前が付けられています。頚椎は第1頚椎(環椎と呼ばれています)から第7頚椎までの7個の骨、胸椎は第1胸椎から第12胸椎まで12個の骨、腰椎は第1腰椎から第5腰椎までの5個の骨から成っています。仙骨はもともと(発生の段階では)5個の仙椎から形成されていましたが、ヒトでは5つの骨が癒合して一つの仙骨となっています。これに小さな尾骨が続いています。ヒトがまっすぐに立ったとき、脊柱は前からながめるとまっすぐに見えます。ところがこれを横からながめると、ゆるやかなS字状のカーブをしています。もう一度イラストを見てください。このカーブを専門的用語でアライメントまたは配列と呼んでいます。この配列は大変重要で、配列が乱れてくると頸部痛や腰痛の原因になってきます。

図1:脊柱を横から見たところ

背骨の大体の仕組みはわかっていただけたと思います。では背骨はいったいどんな働きをしているのでしょうか?「脊柱」と呼ばれるとおり、まず第1は体を支える柱としての役割です。これを専門的用語で「支持」と呼んでいます。背骨がぐらついてくると(不安定性)体を支えることができなくなってきます。もう一つ重要な働きが「運動」です。荒川静香さんのイナバウワーほどではないにしても、皆さんは体を前後左右に曲げることができるはずです。これが運動機能です。実はもう一つ重要な働きがあります。背骨の中には中枢神経である「脊髄」が通っており、さらに「末梢神経」が脊髄から分かれて全身に分布しています。大切な脊髄を保護するために、脊柱はトンネルのような構造(脊柱管と呼びます)をしています。「脊髄や神経の保護」がもう一つの重要な働きです。「支持」「運動」「神経の保護」が脊柱の重要な役割です。

3.椎骨と椎間板

脊柱を構成する一つ一つの要素を「椎骨」とよび、頚椎・胸椎・腰椎はそれぞれ5個、12個、5個の椎骨で構成されていることをお話ししました。それでは椎骨はどんな形をしているのでしょうか?次のイラストを見てみましょう。図2は椎骨を上からながめたところ、図3は椎骨を横からながめたところです。どちらのイラストにも椎間板が描き込まれています。

椎骨は前方(腹側)の缶詰のカンのような形をした「椎体」と、後方(背側)の複雑な形をした「椎弓」から成っています。椎弓はその名の通り弓のような形をしていますが、上下の椎体とうまく連結するための上関節突起や下関節突起、筋肉や靱帯が附着している棘突起や横突起などがついているために、かなり複雑な形をしています。椎体と椎弓で囲まれた空間を椎孔(脊柱管)と呼んでいますが、このスペースに脊髄が通っています。

椎骨と椎骨の間には「椎間板」と「椎間関節」という2種類の関節があります。椎間板はまさに衝撃を和らげるクッションの役割を果たしています。椎間板は加重の約80%を支えていると言われています。缶詰のカンの形をした椎体と椎体の間に、柔らかいクッションが挟まれている様子を想像してみてください。クッションの綿に当たるものが「髄核」と呼ばれる柔らかいゲル状の組織で、クッションのカバーに当たるものが「線維輪」と呼ばれる強固な線維状の組織です。線維輪にほころびができて、中の髄核が飛び出してきたものが「椎間板ヘルニア」です。

図2:椎骨を上から見たところ

図3:椎骨を横から見たところ

4.靱帯(じんたい)と筋肉

背骨を支えるのに重要な働きをしているのが靱帯(じんたい)と筋肉です。(図4)靱帯はアキレス腱などと同じ線維性(せんいせい)の結合組織です。脊椎を相互に連結していて、椎体相互の運動を有る程度許容しながら、異常な動きや脱臼を予防しています。普段は靱帯の働きを実感することがない縁の下の力持ちですが、外傷などで靱帯が損傷してしまうと、骨がぐらぐらになり(不安定性)、支持や運動などの機能に支障が出てきます。また靱帯に石灰(カルシウム)が沈着したり、靱帯が必要以上に厚くなると(靱帯の肥厚と呼びます)、神経を圧迫してしびれや運動障害などの神経症状の原因となることがあります。(後縦靱帯骨化症や黄色靱帯の肥厚による腰部脊柱管狭窄症などが代表的です。)

筋肉も名脇役です。背骨は長短の筋肉により支えられていますが、特に脊柱起立筋と呼ばれる筋群の働きは重要です。MRIなどの画像診断が容易にな り、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄による神経の障害が画像で説明ができるようになってきたので、椎間板や神経ばかりが注目される傾向がありますが、これは誤りだと思います。外来を受診される患者さんの訴えをよく聞くと、「肩こり」や「腰痛」など筋肉が関連した痛みであることが多く、もっと筋肉の働きの重要性を認識すべきだと思っています。

  • 図4:靱帯を横から見たところ

5.脊髄と末梢神経

最後に「脊髄」と「末梢神経」のお話しです。
脊柱管の中を走っているのが「脊髄」です。「脊椎と脊髄って、いったいどう違うんだ。」という声が聞こえてきそうです。お答えしましょう。脊椎は「骨」、背骨そのものです。「体の支持」「体の運動」と「脊髄や神経の保護」が背骨の重要な役割でしたね。これに対して、脊髄は「神経」です。脳からの指令を末梢に伝える、そして末梢からの情報を脳に伝えるのが神経の役割です。脊髄が完全に障害されてしまうと、四肢麻痺といって手や足が動かなくなるばかりか、熱いとか痛いといった感覚がわからなくなります(知覚鈍麻)。「脊椎」と「脊髄」ややこしい感じもしますが、明確に区別してください。

脊髄の長さは約40~45cmあり、断面は直径が約1cmの楕円形をしています(図5)。頚髄・胸髄・腰髄・仙髄に大別されています。それぞれ頚髄からは8対、胸髄からは12対、腰髄からは5対、仙髄からは5対の脊髄神経が出ています。脊髄は外側より丈夫な結合組織である硬膜、薄い半透明なくも膜及び軟膜と呼ばれる、3層の膜に包まれています。くも膜下腔は脳脊髄液で満たされています。(図6)

脊椎と脊髄の働きに何らかの異常が生じると、これからお話しするようないろいろな病気が出てくることになります。

図5:脊柱管と脊髄の関係

図6:椎骨と脊髄の関係

脊椎脊髄外科 久保田 基夫

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脊椎脊髄外科診療内容

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