プレ妊娠世代に対して今できること
2017/2/15
![]() | 「生殖医療科って何をしているところなの?」というテーマで、不妊治療からはじまり、がん・生殖医療、女性アスリートサポートの話まで広げてコラムを書いてきましたが、最後の第12話は、「プレ妊娠世代に対して今できること」という題目で私見を交えて書かせていただきます。 |
我々は、これまで不妊で悩んでおられる方、子供を望むカップルに向けて話をする機会が多かったのですが、地域と連携し医療を行う中で、目の前にいる患者さまだけでなく、将来子供を持ちたいと思うプレ妊娠世代にも正しい知識を持って欲しいという思いで様々な取り組みを始めました。
本年1月には、千葉県内の高校2~3年生約160名に向けて「10年後の君たちへ」というテーマで講演し、妊娠の仕組み、妊娠適齢期、高齢妊娠、若年がんの方たちの妊孕性(にんようせい)温存治療、日本が抱えている少子化や人口減少の問題、特別養子縁組、個人の性的指向・性同一性まで、様々な角度からお話をさせていただきました。
アンケートの結果、はじめて聴く内容が約7割であったのにもかかわらず、9割以上の生徒が「関心がある」と答え、思った以上に将来働くこと、結婚すること、子供をもつことを意識していると感じました。
結婚すること・子供をもつこと(アンケートより)
男子の約70%、女子の約85%が将来結婚をしたいと答え、その年齢は二峰性になっています。一方、子供がほしいと考える人は男子約56%、女子約82%と結婚と子供を持つことは決してイコールではないようです。また子供が何人欲しいかという質問に関しては男女共約2.3人欲しいという結果でした。
今回講演を聴いてくれた生徒たちも進学や社会に出る等、新しい環境になれば考え方も変わっていくでしょう。ただ、個人の選択ではなく、社会の環境によって子供が産めない、育てられないということがないように我々の世代が整備をしておくことの大切さを強く感じました。同時に性感染症の予防や、女性は排卵障害や月経困難症の管理など、早い段階で産婦人科を受診するよう若い世代へ啓発をしていくことの大切さについても改めて考えました。
社会はどんどん変化します。生殖医療の基礎科学分野ではマウスの尻尾由来のiPS細胞から培養皿上で卵子を作製し健常なマウスが産出されました。また、人のiPS細胞をブタの受精卵に注入し、人の細胞が交ざったブタの胎児を作ることに成功しており、今後の治療に応用される可能性も否定はできません。臨床医学分野では、メキシコでミトコンドリア病女性の卵子の核を別の女性の卵子に移植し、父親の精子と受精させ、母親の体内に戻し妊娠に至りました。これはミトコンドリア病の患者にとっては画期的な不妊治療の方法となりますが、ミトコンドリアも遺伝情報を保つため三人の遺伝情報をもつ子供が生まれたことになります。また海外では先天的に子宮がない女性に対し子宮を移植し妊娠・分娩に至った報告もあり、日本でも臨床研究として開始されます。
社会的な取り組みとして、浦安市では20~34歳の女性市民に向けて卵子凍結を行い、女性の仕事と妊娠の両立ができるかどうかの臨床研究が行われています。また、東京都は、少子化対策として早期の不妊治療を促す狙いで35歳未満の男女を対象に不妊検査費の一部を助成する独自制度が2017年度から開始されます。
社会の多様化を受け入れることと、倫理道徳まで考えた医療。そのような次の時代を迎え入れる準備が我々にも必要なのかもしれません。このコラムを20年後見直した時に何を感じるか、そして次に社会を支えてくれる若い世代の台頭を楽しみにコラムを終わりにさせていただきたいと思います。
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亀田IVFクリニック幕張
亀田総合病院 生殖医療事業管理部 部長 川井 清考