もしバナのすすめ(アドバンス・ケア・プランニングって何ですか?)
2016/2/15
初めまして。蔵本浩一と申します。私は現在、この病院の緩和ケアサポートチーム医師として働きながら、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)を普及するための活動を行っています。
巷では「エンディングノート」や「終活」という言葉をよく耳にするようになりましたが、これらもアドバンス・ケア・プランニングの中に含まれるものです。
このコーナーを通じて、一人でも多くの皆様にアドバンス・ケア・プランニングを知ってもらい、それを自分や大切な人のために活かしてもらいたいと思います。
第1回目は、アドバンス・ケア・プランニングとは何か、についてのお話です。
アドバンス・ケア・プランニングの定義は「将来の意思決定能力の低下に備えて、患者さまやそのご家族とケア全体の目標や具体的な治療・療養について話し合う過程(プロセス)」とされています。簡単に言うと“もしものための話し合い”です。
この話し合いには、“もしもの時”に、自分がどんな治療を受けたいか、または受けたくないか、そして自分という一人の人間が大切にしていること(価値観)などを、前もって大切な人達と話し合っておく、その一部始終が含まれています。
ここまで読んで、「『なんだ、今のうちに遺言状を準備しておくように』という話か」と思った方がいるかもしれません。確かに遺言状の作成もアドバンス・ケア・プランニングの一部ではあります。しかしながら、アドバンス・ケア・プランニングと遺言状作成には大きく異なる点があります。それは、アドバンス・ケア・プランニングは一人ではできない、ということです。つまり、話し合いには相手が必要ということなのです。当たり前のようですが、この話し合いが実は難しいのです。
数年前に亀田総合病院のある鴨川市と東京の町田市で、延命医療・終末期医療に関するアンケート調査が行われました。「終末期医療に関心がある」と答えた人は鴨川市で7割、町田市では8割近くに上りました。その一方で「もしあなたが終末期医療の希望を明示できなくなった時、あなたの代理人となる方は、あなたの終末期医療の希望について、どの程度知っていますか?」の問いに対して「正確に知っている」と答えた人は、一般の方では1割以下、医療者でも2割しかいませんでした(図参照)。つまり8割以上の方が終末期医療に関心を持ちながらも、実際には満足に話し合うことができていない、ということになります。
あなたが終末期医療の希望を明示できなくなった時、決めてほしいと考えた人は、あなたの終末期医療の希望について、どの程度知っていると思いますか(%)
なぜ話し合えないのでしょうか。多くの人にとって、自分にはまだ関係ない、できれば先延ばしにしたい、そんな話題なのかもしれません。でも実際にその時が来たら考えられない、考えたくない、話し合えない・・・そういうケースは少なくありません。
私たち医療者は、常に患者さま(とご家族)にとっての最善は何か、を考えながら治療・ケアにあたっています。アドバンス・ケア・プランニングは患者さま(とご家族)と医療者の双方が考える最善を達成するための一つのツールになり得るものです。とはいえ「今は決めたくない」「考えたくない」と思っている人に無理強いするようなことがあっては意味がないと私自身は考えています。
皆様の中で、もしもの際は自分の意思を最大限尊重してほしい、そう思っている方がいましたら、まずしていただくことは自分の意思・希望が何であるかを考えて、それを大切な人(=あなたの意思決定の代理人になってくれる人)と話し合いしっかりと理解してもらうことです。書面に記しておくとなお良いでしょう。そして、人間誰しも心が変わることもあります。この話し合いは一度で終わりとはせず、折に触れて継続して話し合っていくことをお勧めします。
疼痛・緩和ケア科のご案内
亀田総合病院 Advance Care Planning in AWA プロジェクト代表 蔵本浩一